水道水をゴクゴクと飲んだことがあった
2024年05月31日
少し個人的な話にお付き合いいただきたい。
水の飲み方が、昔とはずいぶんと変わったと思うようになっている。
思い出すのは、もう50年近く前の話になるのだが、学生時代の部活動で(室内スポーツだった)のことだ。当時、運動中は休憩中でも水を飲むのを制限されていた。今では懐かしくほろ苦い思い出だが、運動部にいた60歳以上の人ならだれでも経験したことのある話ではないだろうか。
はっきりとした理由は分からない。水を飲んで運動をすると疲れやすくなるとか、パフォーマンスを出せないとか、苦行を強いることで精神性を鍛えるといったこともあったかもしれない。
休憩中に出された飲み物は、はちみつレモンドリンクだった。それもゴクゴクと飲めないように熱くしたやつだ。当然、僕らはそれだけで喉の渇きを癒やせるわけではなく、体育館の脇にある水道栓の蛇口の下に頭を突っ込み、後頭部を冷やすという名目で、水を掛け流し、耳から頬を伝って流れ落ちる水をすすったものだった。
その水の美味しかったことを忘れることはない。ゴクゴクと飲むというわけにはいかないのだが、それでも口の中に染み渡る冷めたさを堪能したものだ。
そんなことを思い出すうちに、そういえば最近では、もう蛇口から直接水を飲むことがなくなったなあと思い至ったのだ。
昔は、学校だけでなく公共施設には、飲み水用に蛇口が上に向けられているタイプがあった。そうでなければ、手を柄杓替わりにしたり、蛇口の下に口元を突っ込んだりして、ゴクゴクと水を飲んだものだ。家でも、目の前にコップがありながら、それを使わずに口元を突っ込みながら水を飲み、母親から「行儀が悪い」と叱られることもあった。蛇口から勢いよく飛び出た水が口腔内をかき回し、喉元を過ぎていくときの心地よさとうまさは、格別なことだったように思う。
今の若い人は、そうやって水を飲むことはないのだろう。
もちろん、不特定多数の人が使う蛇口から直接水を飲むことへの、衛生面での問題があるだろう。さらに、スポーツドリンクという商品が世の中に出て、運動中の水分補給が必須になり、コンビニで “ドリンク”が販売されるようになって、飲料は買って飲むことも当たり前になっている。
1980年代のことだが私が大学生の時、地方から出てきた友人が、コンビニのペットボトルの麦茶を見て「麦茶を買うなんて信じられない。だってお茶っ葉を買えば、家でいくらでも美味しい麦茶が飲めるじゃないか」と、いくぶん怒気を含んだ口調で言った。コンビニでペットボトルを買う目的は、美味しさより利便性にあるのだが、友人の言葉を聞いて、妙に納得したことを覚えている。